そういう夜が、一度もなかった
三十代に入って、そういう夜が一度もない。手すら繋がなかった夜を何度も重ねてきた男が、エロの話を正直に書く。何も起きなかった夜の、いちばん奥にある話。
「今日はありがとうございました」
そう言って相手が帰ったあと、私はよく、一人で考える。
この人と、そういう夜は来るんだろうか。
書くのを避けてきた話
このサイトは「何も起きなかった夜の記録」を書く場所だ。
でも、何も起きなかった夜のいちばん奥には、いつもこれがある。
結局、そういう夜が一度もない。
キスの話も、それ以上の話も。三十代に入って、数えられるほどしかない。
プロフィールに書けない欄
マッチングアプリのプロフィールには、身長と年収と趣味を書く欄がある。でも「経験がない」と書く欄はない。
正直に書いたら減る。書かなかったら、会ったときにバレる。私はいつもその二択のあいだで迷って、結局何も書かない。
やっぱり、そういうのって重要ですか?
聞きたくて聞けない。検索すると「遅くても大丈夫」みたいな記事ばかり出るけど、あれは全部、経験のある人が書いている。心に響かない。
何も起きなかった夜の、もう一つ
デートが終わって、手すら繋がなかった夜。
あの夜を思い返すとき、私はいつも二つのことを考えている。楽しかったかどうかと、もう一つ。
この人と、そういうことがある夜は来るのか。
来ない。来る気配もない。それが正直な答えだった。
で、今はこうしている
最近やっと分かったのは、エロは経験の問題じゃなくて、安心の問題だということ。
経験がないことは、向こうは最初気づかない。気づくのは、私が縮こまって、何も言えなくなったときだけ。だから今は、デートの日に一つだけ決めている。
「今日は、手を繋ぐことを考える」
それ以上は考えない。キスの話も、それ以上の話も、今日は考えない。手を繋げるだけで、今の私には十分な一歩だ。
そういう夜が来るかどうかは分からない。分からないけど、手を繋げる夜から、始めたい。
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