帰り道 デートの帰り道に読む
見た目

鏡を見るたびに、私はお腹を引っ込めていた

デートの日に限って、私はお腹を引っ込めていた。見た目に自信がない男が、服を試着室で脱ぐときの話。鏡の中の自分と向き合うまで。

デートの服を買いに、私は試着室に入った。鏡の中の自分を見て、無意識にお腹を引っ込めた。

私と鏡の、長い付き合い

試着室でお腹を引っ込めるのは、デートの日だけじゃない。会社のトイレでも、エレベーターの鏡でも、私はいつも軽く吸っている。

鏡を見るたびに、私は「今だけ」の体型を作っていた。

引っ込めれば、ほんの少しマシに見える。でも服を着て、ベルトを締めて、店を出て歩き出すと、引っ込めていた空気は戻ってしまう。私は外では、ずっと引っ込めたまま歩いていた。

見た目に自信がないと、体の話ができるようになれない

なぜか分かってる。私が鏡を怖がるのは、痩せてないからじゃない。

私の体を見られたら、向こうは「思ってたのと違う」と思うんじゃないか。

そう考えると、私は体のことを一切話せなくなる。体重の話も、体調の話も、ましてや「体の関係」の話なんて、まず無理だった。

向こうは、私の「今だけの体型」を見ているわけじゃない

ある日、服屋の店員さんに言われた。

その服、吸ってない方が綺麗に見えますよ

その瞬間、鏡の中の私が、お腹を引っ込めるのをやめた。

当たり前のことだけど、私は引っ込めてる自分しか鏡で見たことがなかった。脱力した自分の姿を、鏡で見るのが怖くて。

でも、実際に会う人は、私が引っ込めてる姿を見ているんじゃない。私は「引っ込める前の自分」を隠してきた。向こうは、最初から、その「引っ込める前の私」と会っているんだ。

で、今はこうしている

今は、鏡の前で「そのまま」の自分を見る練習をしている。

一日一回、十秒だけ。お腹を引っ込めずに、鏡の中の自分と目を合わせる。

痩せてはいない。でも、それでいい。私が隠してきた体型と、私が会ってもらう体型は、同じものだと、少しずつ思い出している。

体の話ができるようになるのは、多分、まだ先だ。でも、鏡の前で息を止めるのは、もうやめた。

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