沈黙の十秒が、永遠に感じた
初デートで、二人の間に十秒の沈黙が落ちた。その十秒が、私には一時間にも感じられた。沈黙が怖くて、次の言葉を探して、結局、話すことより「沈黙を埋めること」ばかり考えていた夜の話。
初デートで、二人の間に十秒の沈黙が落ちた。
十秒が、永遠になった
お互いに、話すことが途切れた。向こうがコップに手を伸ばして、何も言わずに一口飲んだ。
その十秒が、私には一時間に感じられた。 時計は動いているのに、この沈黙だけは、世界の外で止まっているような気がした。
私は必死に、次の言葉を探していた。でも、緊張が強ければ強いほど、頭の中は白くて、何も出てこない。「何か言わなきゃ」と思うほど、言葉は遠くに行った。
沈黙を埋めることと、話すことは、別だった
あのとき、私は何をしていたか。話そうとしていた、のではなく、沈黙を埋めようとしていた。
沈黙が怖くて、とにかく音が欲しくて、「そういえば、今日は暑いですね」みたいな、意味のない言葉を、機械のように並べていた。相手の話に関係ない、空回りの言葉。
沈黙を埋める言葉は、会話にならない。 私は音を出してるだけで、向こうには何も伝わってなかった。
沈黙は、相手も困ってる
あとから思う。沈黙が怖いのは、私だけじゃなかったはずだ。
向こうも、同じ沈黙の中にいた。 それなのに私は、この沈黙を「自分が悪い」と思って、一人で背負っていた。二人の間に落ちた沈黙を、私一人の責任だと思って、焦って埋めようとしていた。
今思えば、沈黙は会話の失敗じゃなくて、会話の途中にある、ただの間(ま)だった。 間を埋める必要なんて、なかった。
で、今はこうしている
今は、沈黙が落ちたら、怖がらずに、向こうのことを見ることにしている。
沈黙の十秒は、相手を見る時間だ。 コップを飲む仕草、窓の外の景色、隣の席の音。沈黙を埋めるんじゃなく、沈黙のあいだ、相手のことを見る。すると、だいたい向こうから、何かが始まる。
沈黙の十秒が永遠に感じた夜、私は十秒を、一時間の失敗にしてしまった。今は、沈黙を失敗だと思わない。沈黙は、二人が呼吸を合わせてる時間だ。
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