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会う前にLINEを交換する、勇気がなかった

会う前日の夜、私は「連絡先、交換しますか」と送れなかった。アプリの中で「明日ですね」で終わらせるのが楽だった。連絡先を交換するのは、会話の続きを約束することのように思えて、怖かった。

会う前日の夜、私は「連絡先、交換しますか」と送れなかった。

「交換しますか」の一言が、送れなかった

明日会う約束はできていた。会う店も、時間も、決まっていた。

あとは、連絡先を交換するかどうかだけが残っていた。アプリの中で会話はできてるから、別に交換しなくても会える。それなのに、私は「交換しますか」の一言を、三十分ずっと打てなかった。

打てない理由は、あとから分かった。交換するということは、会ったあとも、会話が続くことを自分から約束するみたいに思えた。交換しないままでいれば、会って、解散して、そこで「終わってもいい」という逃げ道が残る。 私はその逃げ道を、手放したくなかった。

アプリの中のやり取りは、安全だった

アプリの中のやり取りは、安全だった。

返事は三日以内に返せばよかったし、既読がつかなくても、それはアプリの仕様みたいに誤魔化せた。LINEに移ると、全部がリアルタイムになる。 既読がつくのが速くなって、返事が遅れると「今どこ?」が分かってしまう。

私はそのリアルさが怖くて、アプリの中という薄い壁の向こうから、相手と話していた。

結局、相手から送られてきた

前日の夜、私が打てなかったあの文を、向こうから送られてきた。

もしよければ、LINEで話しませんか?

私はすぐに「いいですよ」と返した。指は、あっさり動いた。

自分からは打てなかった文も、相手から来れば、一瞬で返せる。 私はその差に、がっかりした。交換したいかどうかじゃなくて、交換を自分から言えるかどうかが、私には足りなかった。

で、今はこうしている

今は、連絡先を交換するとき、一言だけつけるようにしている。

「交換しましょう」だけじゃなく、「明日、場所が分からなくなったら、こっちに連絡してください」と添える。連絡先は「これからも続けます」の宣言じゃなく、明日のための保険だと思えば、打てる。

あの夜、私が打てなかった一言は、勇気の問題じゃなかった。交換を「約束」だと思っていたのが、間違いだった。 交換は、たかが連絡先。されど、自分から言えると、相手に「この人は続ける気がある」と伝わる。

会う前にLINEを交換するのは、会話の続きを約束することじゃない。明日、迷わないための、ただの道順だった。

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